エスペリダス・オード

2巻
エルハイアは明らかに人間との対等な共存を考えている。
対する存在であるアルドは、そのエルハイアに母を殺されてしまった。
アルドとエルハイアはお互いがお互いの精神性を理解しあったという過去を持っているが、アルドが母に対するしこりを残したまま母を失ってしまったことで、その原因であるエルハイアと対決することが不可避になるだろう。
第1話を読んだ時に、エスペリダスオードはアルドが勇者としてエルハイア率いるアリアとの共存の橋渡しをするものと思っていたが、アルドが王として人の在り方を変えていくものになるかもしれないと思い始めた。


そもそもアリアへの悪感情を持っていなかったアルドが母の死への拘りを捨てることになれば、エルハイアが倒す対象ではなくなり、取りも直さずそれは勇者の称号も捨てることに繋がる。魔王と戦わない勇者はいないだろうから。
そうなると、世界の存在自体を脅かすような敵がいて、実際にある程度世界が作りかえられるような事態が起こって、それでも敵を倒して、新たなる世界でアリアと人間の秩序を作り直すというエルナサーガ方式にでもしない限りは、エルハイアとアルドの確執が個人的なものであるために人がアリアとの共存に動くとは思えない。


だから、アルドは理想の人間としての勇者(これはアダに通じるものもあるか)としてではなく、政治的にその先にあるべき道を見せて、人を動かす立場に立つ必要があるんじゃないかと思うに至る。
それは勇者としての母超えであり、すでに勇者を(1対1で倒すことで)超えて見せたエルハイアに並ぶことでもある。
勿論、エルナとエイリーク、アダとサクヤ姫のように王を動かす立場の勇者になることの方が(というか堤さんの長編はそういうものばかりだ)アルドの年齢的にも話として現実的で、ほぼ確実にそうなるとは思うのだが。


ちなみに2巻ではアルドが本来話すとは思えないセリフがいくつかあった。
1「いずれにしろできはしない 人と魔族が友としてずっと暮らすことなど この人間の世界の中で・・・」
2「そして、俺は生きのびてしまったっ・・・」
3「この世界など・・・壊れてしまえば」


一応3つとも、一つの流れの中のセリフで、
1 母勇者が血を流しアリアを退けて作り上げた今の世界で人とアリアが共存することができないということを、既にアリアと命懸けで対峙したアルドが実感して出てきたセリフ
2 1のような世界の中で少年時代のアルドの友達であったエルハイアが餓えて死に(とアルドは思い込んでいる)、アルドはエルハイアの誇りを守ることが出来ないまま生き延び続けていることが、転じて?に掛かってアリアと共存できない世界を生きていることや、実際にアリアと倒して生きのびていることへの虚しさからのセリフ
3 1・2の結果として、アルドが少年らしいというか極端な結論に達して発したセリフ
これだけのセリフが気になったから、上で書いたようなアルドが王になるということを考えてみたわけだ。


そういえば、今回はタクティクスオウガドラクエ4を彷彿とさせる展開があって、ちょっとニヤニヤと楽しんでみたりしていました。
僕にこの手を汚せというのか!ピサロ様!勇者を仕留めました!
いや、後者はよくある展開でもあるんですけどね。前者はシチュエーションがまんま過ぎて、どう展開させるつもりかとハラハラしました。結果はとてもいい感じで、エルハイアを堪能させて貰いましたが。


ところで、以前にざっと連載中情報をまとめてみたことがありましたが、そういうこととは関係のないところに話が進んでいる上に、2巻のあとがきでは主人公達の名前の由来などが記されてありました。
あの時に一応まとめてみたものの、そういう視点はなかったなあと反省することしきりと思ったりもしました。